本当の名前 

こんにちは。
2日間、熱を出してすっかり寝込んでしまいました。
久しぶりのことでした。

熱に浮かされながら、いろんなことを思い出しました。

私は、仕事上の名前を旧姓のままにしています。
私の旧姓は、ある地名と同じです。
そこの出身ですか?とよく訊ねられるのですが、そうではありません。
その地名とは関係なく、父方の祖父が生まれた家の屋号が姓になったようです。

私は、熱の中で、幼い頃の夏休み、祖父母と家族とで、祖父の生まれた家のあるあたりに旅行した時のことを思い出していました。

毎日、裸足で熱い砂浜を越えて、海でさんざん泳いでは、帰って昼寝をしていました。
あんなに海辺にあるからには、祖父の生まれた家のもともとの生業は、漁師だったのでしょうか。
一緒に遊んでくれた子どもたちは、みんな泳ぎが上手で、いろいろなことを教えてくれました。
泊まった部屋の襖に、壮大な山水画が描かれていたような気がいたします。
何もかも、定かではありません。

あのあたりの屋号には、子供心にもちょっと笑っちゃうような面白いものがあったように思います。
表札にもどこにも書かれてはいないけれど、誰もが人も家も、みな屋号で呼んでいましたから、すぐに覚えました。
そして今は全部忘れてしまいました。

近くに大きな大きな川があって、その川の名前が橋のたもとの看板に書かれていました。
祖母が、私の手を引いて、橋を渡りながら、川の本当の名前を教えてくれました。
その名前は、看板に書かれた名前とは違っていました。

文字に記録された世界の裏側で、文字にならない本当の名前によって形づくられている現実の暮らし。
そこにいて、実際に触れる者にしか教えられない、本当の名前。

本当の名前。

私は、母方の祖母から伝わる女紋のことを思い出します。
結婚して、他家に入り、姓を変えてゆく女たちが、名前なんて軽く越えて作っている、もう一つの流れ。

それから、子どもの頃、絵本で読んだ「だいくとおにろく」という話を思い出します。
めだまを欲しがって、勝手にどんどん橋を架けてしまうこわい鬼。
大工が、本当の名前を呼ぶと、鬼は消えていなくなりました。

最近では、仕事名で呼ばれることの方が多くなりました。
仕事名は旧姓ですので、幼い日々を共に過ごした名前です。
家庭人としての私(さくらちゃんのママとか、ご近所づきあいとか)は戸籍名です。
戸籍上の名前も、優し気で、なかなかいいなあと思っています。
私の本当の名前はどちらなのかと聞かれると、今ではよくわからなくなりました。

現実の生きた子どもたちとの暮らしから、文字に書かれたものを追う研究中心の暮らしになった今の私。
2つの名前は、今の私にとって、大事な合図だと思います。

文字に書かれた世界がただ一つの世界だと思ってしまわないように。
2つの名前は、帰り道のための目印の小石なのです。

今、ここに、目を凝らし、耳を澄ますということ。

いつも、すぐそばに、本当の世界があるということ。





[2010/11/12 16:27] 日記 | トラックバック(-) | CM(10)

お嬢様に引き続いて、ここさんもお風邪でしたか
お熱が高かったようで 御辛い二日間でしたね
もうだいぶ良くなられたようでホッと致しました。
今年もお腹の風邪、高熱の風邪・・と流行っているようですね
私も気をつけます。
ここさん、お熱の間にずいぶん色々思い出され、お考えになられたのですね(*^_^*)

名前・・
そうですね
旧姓で呼ばれると、確かに当時の事が自然に甦ってきますね。
お仕事でずっと、旧姓を使われていると言うことですから、
当時の事と言っても、お仕事に関しては、今の事もなのですね(笑)

私も最近は、高校のクラス会(もう、今では定例会です)が二カ月に一回ありますので、
その時にはすっかり旧姓の自分の世界に戻ります。
今の名前をすっかり忘れて過ごす時間です
○○ちゃん!と呼びあえる懐かしい時間です
最近は遠回りして、その高校の前を懐かしく通ることが多くなりました。


[2010/11/14 08:15] Hulaさん [ 編集 ]

Hulaさん、こんにちは。

このたびの風邪はさすがに強力で、私もとうとう非常勤先の講義を休んでしまいました。
全体に、一進一退しつつ、よくなっているという感じです。ありがとうございます。

Hulaさんの高校の同窓会、楽しそう。2カ月に1回というのはとても仲良しですね。

私は、最近では、娘が保育園の時のお母さん達の会が同窓会みたいで懐かしい時間でした。思えば人生で一番大変な時を一緒に過ごした仲間なのでした。


[2010/11/14 13:47] ここ [ 編集 ]

こんばんは。寝込まれたとのこと、つらかったとお察しします。お加減いかがですか。
川の名前は、どうして本当の名前を看板に書かないのかな。とてもミステリアスです。外国がどうかは知らないけど、日本の奥ゆかしさってこういうところにあるのかなーって感じます。
こんど祖父母に会ったら、そうやって二つ名前があるものを知ってるかどうか、きいてみたいと思いました。
寒くなったので、あたたかくお過ごしください。
[2010/11/15 19:55] sansjanbon [ 編集 ]

sansjanbonさん、こんばんは。

お見舞いありがとうございます。おかげさまで、かなりよくなりました。今日も何もせず過ごしてしまったのは、風邪のせいか怠けたのかちょっと分からないという境界線上にいます。

川の名前についてですが、実際に使われている名前と、記録された名前にズレがある理由は、調べておりませんので分かりません。(日本の川です。)いつ、どの時点で今の名前になったのかもわかりませんが、たぶんその時の記録者の都合(センス?)によって、今の地図上の名前が採択されたのだと想像します。それは、その場で生活していた人々より、記録する者の方に「力」があったということだとも思います。

今もあのあたりで、あの川が今も祖母達が呼んでいた元々の名で呼ばれているかどうか、今も人々が屋号を呼んでいるのかどうか、もはや私には知り得ません。たとえ旅行者として出かけたとしても、その名を呼ぶ昔ながらのコミュニティーの中に入ってゆくことは、(たぶんかなり時間をかけないと)出来ないと思うからです。
ただ、そんな風にしてたまたま本来の名前が文字化されずに残ったおかげで、人々にとっての「川」も、本来の名前と共に残ったのではないかなとも思います。(あれから随分たちましたから、どちらももう、忘れられてしまっているのではないかなと悲観的な想像をしたりしていますけれど。)

この先、お祖父様お祖母様から、名前のことに限らず、いろいろなお話がうかがえるといいですね。私はsansjanbonさんの日記を読んでいると、あなたとお話するときっと楽しいだろうなあと思いますから、お祖父様お祖母様でしたらなおさら、あなたとのひとときをお楽しみのことでしょう。ご記憶の中にあって、あなたの思いもよらないような、とーってもいろいろなお話がうかがえるといいですね。

どうぞどうぞ、お風邪にはくれぐれもお気をつけ下さいませ。


[2010/11/15 23:04] ここ [ 編集 ]

こんにちは。

拙ブログにいつも足跡が残っておりまして、とても気になっていました。私も何度か玄関先まで行ったのですが、気遅れしてそのまま戻ってしまいました。
しかし「天上の波紋」にいたく心を動かされ、思い切って書き込んでしまいました。
すみません改めて、南亭と申します。よろしければ今後もときどき訪問していいでしょうか。

[2010/11/18 19:26] NANTEI [ 編集 ]

NANTEIさん、こんばんは。

ようこそお越し下さいました。そして、コメントをありがとうございました。
とても嬉しいです。

それから、「天上の波紋」気に入ってくださったとのこと、とても嬉しいです。実は、10年以上にわたって山下さんからうかがったお話のストック?があります。もはやご高齢ですし、ご存命のうちに記録し、細かいことを確認しなければと思いつつ、日々に紛れて手つかずになっておりました。このたび、何か背中を押していただいたようにも思いました。コメントくださって、本当によかったです。ありがとうございました。

こちらには、南亭さんところのように、楽しんでいただける絵も写真もございませんが、どうぞどうぞまたお越し下さいませね。お待ちしております。


[2010/11/18 21:48] ここ [ 編集 ]

ここさん、こんばんわ。
そーですか。ここさんの旧姓は、どこかの地域の名前なんですね。

わたしも、ある地域の名前と同じなので、
自己紹介をするときに「○○と申します。出身は××です。」というと、
相手はよくわからなくなって、○○出身の××と混乱するみたいです。

地元の友人からは、未だに、××に由来したあだ名で呼ばれます。

小学生のころは、それがいやで仕方がありませんでしたが、
中学、高校と使われ続けているうちに、シックリくるようになりました。
案外、そっちのほうが、ほんとの自分の名前なんじゃないかと思うような錯覚も受けます・・・

数年前に弟の結婚式で姫路に行った際に、
弟が高校時代の友人からまったく同じあだ名で呼ばれていたのを聞いて、
なぜだか、気恥ずかしい気持ちになったのをよく覚えています・・・
[2010/11/19 20:41] akihito [ 編集 ]

こんにちは。

たびたびですみません、お邪魔します。
先日はあたたかく迎えていただき有難うございました。
山下さんのお話、さかのぼって読ませていただきました。このような佇まいの美しい方が、まだいらっしゃるということに、改めて感動いたしましたし、ここさんの描き方のなんとけれんみのなさよと、感心もさせられました。非常に判りやすい文章のなかから、人も風景もよーく見えてきます。
私はときどき戦争体験の聞き書きのような話を、二十代、三十代の方々によもやま話のついでに語ることがあります。輸送船への爆撃、満州からの逃避行、戦後のヤミ市、傷痍軍人のことなどなど。語り継がなければならない責任があると思うからです。ただ、私のブログは娯楽番組と捉えて書き連ねていますので、お気楽に見えるでしょうけれども。このような世界がお嫌いでなければ、たまには覗いてみてください。また感想がありましたら、書き込みしていただければ嬉しい限りです。長くなりました。
[2010/11/20 15:18] NANTEI [ 編集 ]

akihitoさん、おはようございます。

コメント、ありがとうございます!
週末、高松に行っておりましたので、お返事遅くなってしまってすみません。

akihitoさんも、名前が地名仲間なんですね。
なぜか嬉しいです。

それにしても、
>「○○と申します。出身は××です。」
という自己紹介は、混乱するけど印象に残るという逆説的な自己紹介ですね。

> 案外、そっちのほうが、ほんとの自分の名前なんじゃないかと思うような錯覚
本人の意志ではなくて呼ばれる名前でも、少しずついろんな背景が出来てくると、やっぱり本当の名前になっていくのでしょうね。
それも、弟さんが同じように呼ばれておられるのを耳になさる体験、ちょっと倒錯的で、貴重なご体験だなあと、うらやましく?思ったりでした。

名前が地名の仲間を他にも捜してみたいです。
今日は雨になりました。


[2010/11/22 10:31] ここ [ 編集 ]

南亭さん、おはようございます。

山下さんのこと、お読みくださってありがとうございます。
私は、これまではずっと、私がお話を聞きに行っていることを、山下さんを知らない方にはほとんど申し上げずにきました。
たぶん、山下さんのお話が、あまりに静かで、ひそやかな雰囲気であったせいだと思います。
最近人づてに、山下さんが「私の言いたいことはあの人(私のことです)に話してあるから」とおっしゃったということを聞いて、私だけが聞いているということが、心配になってきたところです。
私はもともと、人のお話をうかがうことがとても好きなのです。
でも私の場合、ただ聴くというだけで、せっかくいろいろな方がお話下さった様々なことを、誰かに伝えるということが少ないので、申し訳ないと思うことばかりです。
南亭さんが、心を込めてお読み下さって、とても嬉しいです。

南亭さんのこと、なんとなくお若い方のように想像しておりましたが、戦時中をご経験なさったのですね。
南亭さんのお話、ブログはとても楽しいですし、戦争のお話もきっと、楽しい内容ではないでしょうけれど、やっぱりクールで聴きたくなるお話であろうと想像いたします。
是非うかがいたいです。

私も、これからも時々、山下さんのお話を書いてみようと思っています。
またどうぞよろしくご指導下さいませ。



[2010/11/22 10:53] ここ [ 編集 ]

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