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旅日記 東京・学生時代 

こんにちは。
6月になりました。
庭の隅に、真っ白い卯の花が咲きました。
リビングの前には、赤い一重のツルバラがたくさん咲いています。

東京に行ってきました。
今回は、卒業した大学の近くに宿をとりました。
そのあたりに出かけるのは、卒業以来です。

どんなに懐かしいことだろうと想像していました。
ところが、駅に着いてみると、懐かしいとか、思い出すとか、そういう感じが全然ありません。
私と来たら、何だか朝出て、夕方帰ってきたときのように、特になんという感慨もなく、改札口の方へ向かい、ホテルの方へ向かっているのです。
駅前の商店街のお店は、きっとすっかりかわっているのだろうと思うのですが、道筋は同じで、人の流れも同じ。
そんなものには目もくれず、まるでずっとここにいた人のように、早足で歩く私。

それはやっぱり変だろうと考えて、もっとしみじみした自分がいるはずだと思うのですけれど、わかりきった道筋をさっさか歩くわたくし。
ホテルに荷物を置いて、変な感じのするまま、また街に出ました。
前日になってから突然お電話して、学生時代にお世話になっていた方に会いに行くことになっていました。

少し時間がありましたから、思いついて、大学まで歩いて行ってみることにしました。
というのが、歩けると思っていたからです。
それが大きな間違いであったと気がつくのは、ずいぶん歩いてからのことで、あとの祭り。
方向的には合っていたのですが、思ったより距離がありました。
20年の間に、頭の中でデフォルメされて、都合のいい地図が出来上がっていたようです。
結局、少し迷ったりして、一時間近く歩いてしまいました。

あたりは、ひと筋中にはいると、昔と変わらない落ち着いた住宅地。
私はこのあたりを自転車で通っていました。

大学に着いたのは、もう5時前でした。
ヨーロッパ風の前庭を囲んで、古い校舎がそのまま。
教室には灯りが点いて、授業が行われている様子でした。
池には、相変わらず睡蓮の花が咲いていました。

校舎の後ろの林の方へ行ってみました。
学生の私は、明るくて少し薄暗い、キャンパスの林が好きでした。
昔の武蔵野の風情そのままの林です。
その中に、「宗教センター」と呼ばれていた小さな家があって、時々お邪魔しては、お茶を飲んだりしていました。
(学生がちょっと寄ってお茶を飲んだり出来るところがあるなんて、考えてみたら本当にのどかな大学ですよね。)

これといって訪ねるところもありませんでしたし、なんとなくそこへ行ってみました。
林の中の古い建物も、やっぱり全然変わっていませんでした。
中から声をかけられましたので、木の扉の、真鍮のドアノブを回して、中に入りました。

卒業生であること、ここによく来ていたこと。
でしたら、あの先生をご存じでしょう。
懐かしい先生の御消息。
ご講演が来月あること。

どうぞいらして。
いえ、今日は旅行できたのです。
そうでしたか。でしたら、あの先生はご存じ?

壁の古い木の本棚に並んだ本とか、中央のテーブル。
あの壁の向こうにはきっと今もピアノがあるだろうと思いました。

5分くらいも居たでしょうか、私はその家を出ました。
向こうに、学生時代には無かった建物が見えましたが、そういう風に変わっていくものだろうと思っているせいか、これといって何とも思いませんでした。

林の中には、学生時代お世話になった先生の句碑があるはずでした。
それは、すぐに見つかりました。
深い落ち葉に埋もれて、枯れた細い草の蔓がかかっていました。

私は、背の低い、その句碑の前にしゃがみました。
句碑に書かれた句は、卒業の時にくださった短冊の句と同じ句です。
知っているのに、改めて読んで、同じだなあと思いました。
卒業の時に、先生がその短冊を読み上げて、心を込めて励ましてくださったその句でした。

句碑には、先生のお名前も書かれていました。
先生ご自身の字です。
これは知らないと絶対読めないよね。
句会ではいつも、全然読めない先生の字を読み上げないといけなくて、難儀したり笑ったりしていました。
懐かしくて、懐かしくて、
私は、青い句碑の石を、手のひらで撫でました。
突然、少し涙が出そうになりました。
枯れた草の蔓が、私の手について落ちました。

草の蔓を、手で全部払ってしまうことも出来ましたけれど、
きっと先生は、こういう風に、草に埋もれて、草の蔓が付いたくらいの方が、お好みだったろうと思って、そのままにいたしました。

そこにも僅かの間しかいなくて、私は林をあとにしました。

そのあと、学生時代の後半に下宿していた家を探しました。
大学の近くだったのですが、すぐには見つからなくて、人に聞いたりしたあげく、結局見つけたのは、また思ったより大学から離れた場所でした。

古い大きな家は建て替わっていましたが、表札に書かれた名前は変わっていませんでした。
息子さんの代になっているのでしょう。
下宿でお世話になったお母さんは、数年前に亡くなられたことは知っていました。
もう一度お目にかかって、よくしてくださったお礼を申し上げたかったと思うとせつなくて、
せめて、仏さまにお参りをしたいと思って、実は少し準備もしていました。
でも結局、家の前にしばらく立っていただけでした。

今、私の机の上の箱の中にある、古めかしい形の玄関の鍵は、ここにあった家の鍵です。
家は無くなって、鍵だけが残りました。

それから、当時遠慮もなにもなく、しょっちゅうお邪魔していた家に行きました。
またしても、遠慮無くうかがうわけです。
懐かしい方も来てくださって、皆さんでお夕食。
久闊を叙すといった部分はすぐに終わって、後は昔ながらの雰囲気そのもの。

それぞれの子ども達の話をしているのに、学生時代もそんな話をしていたような気がします。
バイオリンの演奏とか、ちょっとした毒舌とか、ずっと前から、ずっとずっと前から。

帰りたくなくて、もう遅くなってしまって、帰らないといけなくて。
どこに帰るかというと、下宿に帰るのです。
送っていただいて、お別れして、ホテルの前まで来たら、急に、初めに下宿していた家を見に行きたくなって、私は夜道をぐんぐん歩き出しました。

商店街の賑わいがだんだん無くなっていく感じの帰り道。
となりの部屋の子と、自転車で二人乗りしてころんだあたり。
いつも一大決心しては買っていた、かわいい雑貨のお店が今もありました。
そして下宿も。
その家のおじいさんは、詩を書く人でした。

そうだ、お風呂屋さんに行ってみよう。
11時までやってるはず。
そうだ、ついでにお風呂に入っちゃおう。
素晴らしい思いつきにわくわく。
走るようにして、お風呂屋さんのあった辺りに行きました。

お風呂屋さんは、結局見つかりませんでした。
人に聞いたら、越してきたばかりなんですって、言われました。

ホテルに帰る途中、行きたいと思っていた古本屋さんに寄って、娘のおみやげに本を買いました。
この辺りに住んでいた学生の私に、娘がいて、いつのまにか仕事をすることも覚えたのだけれど、
やっぱり学生のままの私が、夜遅くまでやっている古本屋さんにいて、書架の前に立っていました。

「百年」という名の、その古本屋さんを出て、ぼんやりと歩きながら、
賑やかに店が建ち並んでいるけれど、ここはやっぱり、ずっと昔から武蔵野なのだなあと思いました。
街の灯りやら、小さな店の移り変わりなんぞは全く意にも介さず、10年や20年は、昨日と一昨日といったような、
そこは、相変わらずの、闇に沈む武蔵野なのでした。

闇の中に、私の知らない、ずっと前からの武蔵野が広がっていました。




追記

翌日、昨夜あれほど探した「亀の湯」の煙突が、電車の窓から見えました。
なぜ?
こんどこそ、絶対行く!








[2010/06/01 15:39] 旅日記 | トラックバック(-) | CM(4)

迷子

ここ様、素敵な迷子を楽しんだご様子。
ちょっと一緒にお散歩させていただきました。

「百年」?「亀の湯」?「池のある大学」?
おやまぁ、お近くにいらしたのですね。
[2010/06/01 17:10] 杣人 [ 編集 ]

袖すりあうも

杣人さん、こんばんは。

迷子。
なるほど、このたびは、いろんな意味での迷子体験でした。

ふふふ、そうなんです。
あの懐かしい辺りのことを書かれた記事、楽しく読ませていただいておりました。
もしかしたら、公園への道あたりで、すれ違っていたこともあったのでしょうか。
[2010/06/01 22:02] ここ [ 編集 ]

学生時代の思い出の街、いいですね。
大学がそのままあるのが羨ましいです。

私の大学は、入学前から経・工・教の統合計画があり、私の卒業後にやっと横浜の三沢のほうに移りましたので、思い出の校舎は今はないんです。
卒業後に、教授の退官講演とかで、1~2回尋ねた事はありますが、それは知らない大学と同じでした。

すぐ近くなので、よく、その横を通りますが、入って行くことはないですね。

下宿時代には銭湯をご利用でしたか?
私は、今、良く利用します(笑顔)
[2010/06/06 12:44] Hulaさん [ 編集 ]

Hulaさん、こんにちは

大学がそのままあること、当然だと思っていましたが、考えてみれば、それはありがたいことですね。
下宿のころ、銭湯はもう一つの家みたいなものだったかもしれません。毎晩、大体同じ方々と顔を合わせて、いつも「おやすみ」って言ってもらって。
いろんな方に、良くしていただいていたなあと思い出します。
[2010/06/06 15:12] ここ [ 編集 ]

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