一夜の宿 

こんばんは
久し振りに雨が降りました。

少し薄暗いたたみの部屋で、娘が一人、人形で遊んでいます。
せっかくのお休みなのに、捻挫をしてしまって、どこへも行けずにいるのです。

「家を新しくしたから遊びに来て」
娘のお気に入りは、おばあさんの人形です。
私はお母さんの人形を持って、頼まれたとおり、旅の商人になりました。

「ごめん下さい。」
「なんだい」
「なんだい?そんなこと、いきなり言う?」
「だって昔話のおばあさんってそう言うじゃない。」
「ヘンだよ」
「じゃあやり直し」

「ごめん下さい」
「どなた」
「旅の商人です。今晩一晩泊めてください。」
「ベッドが一つしかないよ」
「ソファーでいいです」
「それなら、どうぞ」

老婦人は、見知らぬ旅の商人の私を、恐れ気もなく招き入れました。
独りで住んでいるのでしょうか。
こういう人は、誰が来ても、顔も見ずに「なんだい」と聞くのかも知れません。

二人は向かい合って座ります。
まもなくテーブルに二人分の料理。
凝った陶器の器。
二人は向かい合ったまま何の話もしません。
お風呂には、学校でもらったミョウバンの結晶の入浴剤。
早々とベッドに行く老婦人。

旅の商人の私。
何かを売っているのです。
でもそれを売りたいと強く望んでいるわけではありません。
ただ生活のための仕事。
このあたりで、泊まれそうな家はここだけだった。
泊めてもらうほか無かった、と心の中で繰り返しています。
もし、ソファーを貸してもらえなくて、床に寝てといわれたらどうしていたかな、などと考えつつ。
明日の朝はここを出て、別の場所へ向かいます。
あてがあるわけではありません。

たくさんの料理とあったかいお風呂。
愛想笑いも、世間話もない。
私の商売のことを聞きもしない、話もしない。
狭いソファーに横になりながら、明日の朝出て行く自分のことを想像しました。

娘の作った家は、何となく我が家に似ています。

旅の商人の私。
一夜の宿。




[2007/09/16 22:18] 日記 | TB(0) | CM(0)

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