濡れて歩く 

おはようございます。
雨が降り続いています。

私は今、雨のかからない家の中にいます。
乾いた服を着て、窓から雨を眺めています。
そのはずなのに、何となく私の身体の中に雨が入ってきて、
私は静かに濡れてゆきます。

夕方、外に出てみると、土砂降りの雨になっていて、
傘のない人たちが、何人か途方に暮れていることがあります。
自分もその人たちにまじって、軒下に立っています。
私は、朝、母が持たせてくれた傘を持っていました。

私は、名前を知らない人に、「どうぞ」と傘を差し出します。
その人は、すこしだけ驚いて、やがてその傘を差して道路へと出て行きます。
しばらくその人の後ろ姿を見送ってから、私は反対方向へ歩き出します。

私は次第に濡れてゆきます。
髪の間に、雨がしみこんできて、頭が冷たくなります。
歩くたびに靴の中がぐちゅぐちゅと鳴ります。
セーラー服が、ずっしりと重くなってきました。
そのうち、服の中までぐっしょり濡れて、冷たくて、少し寒くなって。
家は遠くて、ずいぶん歩かなければなりませんでした。

濡れ果てて家に着く頃、私はなぜか、顔をあげて歩いていたように思います。
あの時の、目の前を降る雨の筋が今でも見えるように思うのです。

どうしようもないほど濡れて帰ってきた娘。
ちょっと笑いながら「困ってる人に貸した」って言う。

叱られた記憶はなくて、次の日、すっかり乾いた制服を着てゆくことに、何の不思議も感じていませんでした。

あの頃、そういうことが、何回かありました。

雨の中の、遠い記憶です。







[2007/07/04 11:28] 思い出 | TB(0) | CM(0)

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