工場跡 

こんばんは
今日は6月晦日。
茅の輪くぐりの晩です。
赤い満月が昇ってきました。

むかし、「重工」と呼ばれていた工場が閉鎖になって、ずいぶんたちます。
今日、久々に近くを通ってみると、そこは跡形もなくなって、更地になっていました。
大きな鉄の門の間から、誰もいない広い敷地が見えました。
地面には、ダンプのタイヤ跡が、何重にも斜めに走っていました。

愛想も何もないセメントの塀はそのままで、
だだっ広い跡地と、周囲のごちゃごちゃした町とを隔てています。
塀ぎわの所々には、高い楠の木が残っていました。

門衛所も、箱のような大きな建物も、黒っぽい空気も、嘘のように何もなくて、夕方の空が見えました。

ここで働く人々の声が、ごちゃごちゃとこだまして、混じり合って、
働くことのつらさとか、悩みとか、時々の楽しみとか。
ああ、そろそろ退ける時間。
みんながこの門から一斉に出てくる。
歩く人も、自転車の人も。
男やら女やら、嬉しそうなのもいれば、感じの悪い人もいる。
工場の広い中央が、狭く思えるわずかな時間。
この頃は、日が長くて、それでも楽だと思える。
絵に描いたような煤けた工場。

もう終わりの時間が来ているのに、どうして、誰も出てこないんだろう。

みんな、ここで、ずっと働き続けている。

そんなに良くはなかった。
それなのに。





[2007/06/30 21:41] 日記 | TB(0) | CM(1)

ひまわり 

こんばんは
暑いです。汗が一向に退きません。

ひまわりが、あちこちにいっぱい咲いています。
この頃はいろいろな種類のがあるのですね。

家の向かいの空き地には、小さいのが、たくさん群れになってさいています。
ひまわりの黄色は、いい色だなあと思います。

お散歩の途中に、子供の頃種をまいたのと同じ種類のひまわりがたくさん咲いていました。
いつのまに、こんなに伸びたのでしょう。
私の背よりずいぶん高いところに花があります。

小学校の帰りに、花壇の花に手を伸ばして、種を採っては食べていました。
種を割って中を食べるのです。
夢中になって、たくさん食べていました。

花は高いところにあります。
種になってるのと、まだなのがあります。
どの花にも届くかどうかやってみます。
つめたかして、ぎりぎり手をのばすのです。

今考えると、いけないことだったかもしれません。
でも、そんな風には考えてもみませんでした。
たとえ花壇に咲いていたって、木の実や草が誰かのものだなんて、思うはずがありません。
手を伸ばしても届かないのもたくさんありました。
手の届くところにある、面白い木の実や草は、みんなわたしたちのものでした。

何回やってみても手が届かない花に、何回も手を伸ばす子供たち。
きっとそれは、辺り一面、手の届くところに幸せが充ち満ちているから。

ポプラ並木の下の、花壇の列。
うぶ毛でざらざらのひまわりの葉っぱ。

私の背より高いところに、ひまわりの花が咲いています。




[2007/06/29 21:38] 日記 | TB(0) | CM(7)

神様の仕事 

おはようございます。
梅雨曇りです。

お茶を焙じました。
いただきものの雁が音です。

家にあるぶ厚い鉄鍋で焙じます。
その鍋はとても重いので、木べらでお茶の葉を返しながら、焙じます。
お茶の香りの湯気があがって、家中に満ちてゆきます。

木べらでお茶の葉を返しながら、深く息を吸います。
お茶の香りの風が私の身体の隅々に行き渡って、身体が清められてゆくような気がします。

これは、もしかすると神様がくださった仕事かもしれません。
清めねばならない何かを、どうしようもなく抱いている者のために、
神様がくださるささやかな仕事。

この日々の暮らしの中にも、そんな神様の仕事は、思いのほかたくさんあるように思えてきました。

仕事によって清められること。

清められたいと願ってする仕事。





[2007/06/28 09:28] 日記 | TB(0) | CM(5)

午後の水泳 

こんばんは
夜になると涼しい風が吹いてきます。

今日はいつもより早い時間に泳ぎに行きました。
客層がいつもと違います。
少し平均年齢が若いかなあ。

歩くコースと、上級者コースの間の3レーン分が、一般コースです。
平日の昼間ですから、すいています。
私は、行きは平泳ぎ、帰りはクロールって決めています。
のんびりのんびり進みます。
このごろ少し平泳ぎが上手になりました。

一番端に、黒い水着に赤いゴーグルの女性が、ずっと休まず平泳ぎをしています。
そのとなりに、背泳ぎの痩せた女性。
そのとなりが私。
右側に、独り言を言うおじいさん。
その向こうにも泳いでいます。

私は、プールの底の黒い線をたどりながら、のんびり平泳ぎで進んでいきます。
つと、背泳ぎの女性に手が当たってしまいました。
立ち上がって「すみません」って言うと、彼女は背泳ぎのままうなずいて進んでゆきます。

クロールでもどります。
また当たるといけないので、黒い線の上のちょっと中央よりを泳ぎます。
すると、私のすぐ脇を、黄緑色のゴーグルの若い男の人が、乱暴なクロールで通っていきました。
うわあ。
当たるといけないので、また黒い線の上をたどって泳ぎます。

平泳ぎの黒い女性は、泳ぎ続けています。
背泳ぎも背泳ぎを続けています。
黄緑はなんとターンをして、すごい勢いで戻ってきます。

また黄緑がよってきました。
曲がってるじゃん。
こちらはまっすぐ泳いでいますよ。
黒い線を見てるから、間違いありませんよ。
きみ、すごい上手なつもりで泳いでますけど、曲がってますよ。

見ると、今一般コースには7人。
3レーンに7人だから、黄緑君、きみはもっと向こう、中央あたりを泳ぐべきだと思うよ。

黄緑は、今度は歩きながら、クロールの手だけをやって進んできます。
ヘンに見えます。歩いているのに相変わらず乱暴です。
歩くコース、あっちだし。
だから、ほら、もう少し向こうに寄ってよー。

平泳ぎの黒い女性が、突然プールサイドに上がりました。
背泳ぎが、なぜかロープすれすれを、ロープをなぞるように泳ぎはじめました。
少し広くなりました。
ホッとして黒い線の少し端よりを泳ぎます。

黄緑がまたばしゃばしゃとすぐそばを通ってゆきました。
えー、なんで?
向こう、あいてるじゃん。
あ、そうか、君も黒い線の上、泳ぎたいのね。
曲がるもんね。
いいでしょう。それなら、あけてさしあげましょ。

それにしても、背泳ぎは、どうしてあんなにロープにすりすりしているのでしょう。
黄緑がばしゃばしゃと黒い線の上を往復しています。

結局さっきより狭い…。

背泳ぎは、相変わらずロープにすりすりしながら進んでいます。
黄緑が戻ってきました。

3レーンに6人だから…。




[2007/06/28 00:24] 日記 | TB(0) | CM(2)

マーメイド・カフェ 

こんばんは
暑くなりましたね。

図書館前の新しくできたカフェに行きました。
カフェは、全面ガラス張り。
芝生の中の曲がった小道の先が入り口になっています。
何気なく手を掛けた扉の取っ手も透明でした。

白木の床。
中央には長い木のカウンター。
赤い椅子がお行儀良く並んでいます。
そのまわりに白い木のテーブルと椅子。

トレーを持って、パンを選びます。
上質のパンやちょっと凝ったパイ。
たくさん種類があって、どれも何だか外国風です。
ちょっと迷って、アンチョビののったのにしました。

本を読んでいる年配の男の人。
話し込んでいるふたり。
イヤホンをしてうつむいている黒人の人。

急に手持ちぶさたな気がしてきました。
ゆっくり鞄から手帳を出して、今日のところを開きます。
どの日にも、あんまり予定はなくて、薄く日にちの数字が並んでいます。
今日の夜のあたりに、「家事」って書き込みました。

ペンをはさんだまま手帳を閉じて、一口食べます。
小さなパイです。
今度は10月頃のページを開きました。
ちょこちょこっと書き込みがあります。
遠い遠い先の予定です。

ふうっとため息をついて、冷たい紅茶を少しいただきます。
おいしい。

手帳を閉じて、鞄にいれます。

ガラス越しに、芝生や花壇がきれいに見えています。



[2007/06/26 23:57] 日記 | TB(0) | CM(2)

里帰り 

こんばんは
昨日は夏至の日でした。
お彼岸が、あの世への道が開かれる日であるように、夏至の日にも何か秘密がありそうな気がするのは、私だけでしょうか。

里帰りをしてきました。
ベルを鳴らして、玄関を開けると、母が廊下を走るようにパタパタとやって来ます。
聞き慣れた足音です。
玄関の花は半夏生です。

その廊下を歩いて居間の方に向かいながら、すーっと息を吸います。
帰ってきたなあって思います。
私たちの気配以外は、しんとして静かです。

台所はどこよりも明るい場所です。
挨拶めいた話をしながら、あたりを見回します。
何もかも、前に見たとおりの場所にあります。
薬箱の上に出ている薬。
おかしの入った瓶。
鉛筆立て。弟の学習机が、今は背の低い棚として役に立っています。

お箸を並べていると、父がビールを出してきました。
何もいわないけど、父と母が私が来たのを喜んでくれているのが伝わってきます。
「あれ」お酢の物の小鉢。
「いただきもの。結構いいでしょ。」

めだかの水槽がひとつ増えています。
ホテイアオイの黒々とした根の間をお腹の大きいめだかが数匹。
産卵を待っているのだそうです。
窓の外には、まだ青いトマトのためのビニールの屋根。
最初雨が降ったら水が溜まるよって言ったのに、やっぱりそうなってね。
トマトってなかなか熟れないね。

ただ、そうするものだと思う、その通りの暮らし。

私は、素足でゆっくり家中を歩きます。

また、スリッパをどこで脱いだかわからなくなりました。



[2007/06/24 22:01] 日記 | TB(0) | CM(4)

桑の実 

おはようございます。
今日も曇り。
朝の涼しい風が、私の所まで届いています。

桑の実、知っていますか。
「山の畑の桑の実を 小籠に摘んだはまぼろしか」
という、あの桑の実です。
今年の実は、そろそろ終わりそうです。

私がいつも見る桑の木は、畑の桑ではなくて、山の木です。
桑の実は、葉の陰になりながら、枝先に向かってたくさんの実がつきます。
それらは、順にでもなく、一斉にでもなくて、少しずつそれぞれに赤くなってゆきます。
赤くなりかけの、赤黒く熟れたの、実になっていないの。
そういう、いろんな姿で、一つの枝に連なっています。

実の色を選んで、指先でちょっいっと折りとって、つまんで口に運びます。
赤黒く熟した実がいいのです。
いいと言っても、木の実です。
もぞもぞして、甘酸っぱくて、小さいから何だかよく分かりません。
どんな味だったかもう一度確かめようとして、もう一つ摘んで食べます。
まだ熟さない実は、透き通るような赤色です。
あんまりきれいなので、そのうちつい採って食べたくなります。
食べるとやっぱり酸っぱくて、口をすぼめます。
そしてまた、熟れた黒い実をとって食べます。

こんな所までは誰も来ません。
しーんと静かな場所で、一人摘んでは食べます。
次第に何か見られてはならない営みであるような気がしてきます。

ふと「野菊の墓」にも、桑の実を食べるシーンがあったなあと思い出します。
秘密でも何でもないはずの二人の中に、言ってはいけない気がする何かが入ってくるその場面です。

高校生の頃は少しも楽しめなかったその小説を、大人になって読み返した時、本当に涙が出ました。
何かつらい目にあったわけではないのに、それは不思議なことでした。

ただ毎日暮らしてきただけなのに、今はこんなにもこの物語が悲しく思われてしまう不思議。

見えないはずのものが見えてくること。
知らなくてよいはずのことを、いつの間にか知っていること。

甘くもなく、優しくもない、この桑の実を、もう一つ、もう一つと口に運ぶこと。





[2007/06/21 09:56] 日記 | TB(0) | CM(8)

自転車に乗って 

こんばんは
降りそうで降らない一日でした。


親戚の家に海水浴に行ったときのことです。
花火大会があるというので、それぞれ自転車にのって行くことになりました。
その時はみな学生で、六人いました。
全員分の自転車を何とかそろえて出かけました。

走り出してまもなく、私の自転車がこわれてしまいました。
長い間使っていなかったものだったらしくて、どうしようもありません。
いとこのしんちゃんが、後ろに乗せてくれることになりました。
しんちゃんは、わたしより三歳年下です。

私を後ろに乗せて、しんちゃんは自転車をこいで行きました。
花火大会は、一山越えたところにある港であることになっていました。
坂道でした。
舗装された広い道だったけれど、街灯もなくて真っ暗でした。

気の毒で、何度も「重いでしょう」と言いましたが、
しんちゃんはそのたびに「何ともないよ」と答えて、本当になんでもなさそうに皆と同じスピードで進んでいました。

自転車をこぎながら、学校に行きたくなくて、自転車をこいでいたら、知らないうちに日本海の町まで抜けてしまったことがあるという話をしてくれました。
夜になって、真っ暗になって、困って交番に行ったそうです。
今日のように、真っ暗だったのだろうと思いました。

その夜、もう一人のいとこが怪我をして大騒ぎになりました。
医者が遠くて連れて行けない、そんな田舎の海の町でした。

そんな騒ぎがあったのに、今も鮮明に覚えているのは、話に聞いただけのはずの、暗い日本海の町の、ぽつんと明るい交番にいるしんちゃんの姿です。
記憶の中のしんちゃんは、無言で、じっと迎えを待っています。
自転車を漕ぎながら、面白そうに話してくれたのに、何かが悲しくて悲しくてなりませんでした。

しんちゃんはその後、競輪の選手になって、みんなをびっくりさせました。
それを聞いたとき、彼には自転車に乗ることが必要なのだと思ったのを覚えています。

今日、ふとしんちゃんのことを思い出しました。
しんちゃんは、数年前、沖縄の海で亡くなりました。

風と陽ざしを受けて光る、細い銀糸のような自転車の車輪。







[2007/06/18 23:41] 思い出 | TB(0) | CM(4)

父の日 

こんばんは
今は雨がやんでいます。

パパ、お元気ですか。
ご退職後、おばあちゃんのことなどいろいろあって、ご多忙のようでしたけれど、そろそろ生活も落ち着いてこられたのでは、と思っています。
いかがですか?
今日は父の日ですね。
いつもいろいろご心配下さってありがとうございます。

昨日起きてみたら、出目金のマツが死んでいました。
結構大事にしていたのに残念です。
パパならもっと長く生かしておかれただろうと思いました。
何がちがったのでしょう。

植物を生かすことが上手な人のことを、緑の指の持ち主といいますが、生き物を飼うのが上手な人のことは何というのでしょう。
私の手は、パパの手と本当によく似ているのにね。

雨が降ったり止んだり、暑かったり寒かったりです。
気をつけてくださいね。
来週行くので、又お目にかかれるのを楽しみにしています。

ママによろしくね。
[2007/06/17 21:17] 家族 | TB(0) | CM(0)

三十二の瞳 

こんばんは
梅雨の晴れ間です。

先日、島の小さな小学校に行きました。
着いたときは、お昼の掃除時間中でした。

小さな校舎を小さな子供達がお掃除していました。
女の子がリノリウムの床をぞうきんで拭いています。
よく見ると、斜めにきまぐれに進んでいます。
下駄箱の砂を掃きだしている身体の大きい男の子。
その先のすぐ外側がグランドです。
グランドというには、とても小さなグランド。
今は誰も外に出ていないのに、なぜか子供達がいるような気がいたします。

クラスの子どもは15人。
教室の窓からは、気持ちのいい風が吹いてきます。
こっちを見て笑ってくれる女の子や、困ったような様子をする男の子。
子供達の目いっぱいに、私の姿が写っています。

授業が始まりました。
先生の声がとてもよく聞こえます。

司会は山野くんです。
校長先生も、先生たちもみんな来ました。
「さんねん峠」
「三年峠で転んだならば、三年きりしか生きられぬ。」

そうそう、私の担任の先生は木下先生でした。
もじゃもじゃ頭で、すぐ「ごめんごめん」て言いました。
ねえねえ先生、今日いいことあったんだよ。あとで教えたげるね。
先生、なんかお話しして。
先生。

6月のよく晴れた日の午後です。
私は、いつのまにか16人目の子どもになって教室に座っています。

今日、知らない人が授業を見に来ました。






[2007/06/17 00:20] 教育 | TB(0) | CM(2)

雨のお散歩 

こんばんは
明日は晴れるそうです。

昨日は、小雨の中キトリのお散歩に出かけました。
キトリはピンクのレインコート姿です。
前足だけ袖をとおして、あとは紐で結びます。
実は通信販売で買ったら、かなり小さくて、ちんちくりんなのです。
帽子もあるけど、届きません。
全体に、ちょっとヘンです。

傘を差して、いつもの道をとことこと行きました。
いつもはリードを放して走り回るあたりも、ちょっと歩いて終わりです。
終わりです。
あれ、終わりだってば。
キトリがうんとふんばって、動きません。

「帰るよ。」
すごい力です。
雨だから遊べないんだよ。
てこでも動かないぞっていう感じのお顔。
「キトちゃんたら」
そんなに帰りたくないの。
ピンクのかわいいレインコートが、とってもヘンです。

こんなに頑張るの始めてだね。
あそびたいよーって気持ちでいっぱいなんだ。
キトリ、いっつも笑顔で楽しそうにしてるから、忘れてた。
キトちゃんの中、いつもいろいろ気持ちが詰まってたんだね。

わかった、わかった。
まあいいや、しばらく、ここに一緒にいようね。
忘れてたけど、私にもいっぱい詰まってるんだ。おんなじだね。

すぐそばを、ランニングのお兄さんが走りすぎました。
キトリは、もうそっちです。



[2007/06/16 00:39] 家族 | TB(0) | CM(4)

数える 

こんにちは
梅雨にはいりました。
昨夕から、穏やかな雨が降っています。

人づてに、靴作りをしている人が、作った靴に番号をつけているという話を聞きました。
番号は、8年間で500番になったそうです。
初めは、ふと思いついて番号をつけたのかもしれません。
そうやって何の気無しに数え始めて、いつのまにかずっと数えている。

そういえば、石段が続く道を登りながら、いつのまにか数えていることってありませんか。
そういうときは案外真面目です。
だんだん数も多くなって、数えにくくなってもやめたりなんかしません。
数えながら、目の前の次の石段だけを見つめて登ってゆきます。
そのうち声に出して数えるようになっています。
一緒に上っている人から話しかけられると、頭の中で数えつづけながら、ちょっと上の空で答えたり。
数えることが、その道を登る私の杖だったのだと思います。

風、小鳥の声、かたわらの同行者の歩み。

不思議なことに、今ではかえって、そういうときのまわりの景色の方が、鮮明に思い出される様な気がします。

数えることは、欲があるように見えて、案外無心な営みなのかもしれません。
石を蹴りながら歩く子供の、その小さな石のように。


それぞれの街を行く、500足の靴。


[2007/06/14 09:55] 未分類 | TB(0) | CM(8)

青梅 

こんばんは
少し暑くなってきました。
今日、お友達が突然遊びに来てくれました。
わずかの間でしたが、楽しいひとときでした。

そういえば、私が子供の頃は、どこかへ伺うとき、電話してからということはなかったように思います。
そして、生活の中ではほんの少し、急にお客さまが見えたときに備えていたように思います。
御菓子が底をつかないように。
いつでもお客さまをお通しできる部屋を作っておくように。
子供心にも、家にお客さまが見えるのは、とても嬉しいことでした。


「青梅の季節ですね。
 今年は梅を漬けられますか?
 毎年おばあちゃんに漬けてもらっていたのを、いつの間にかママが漬けてくれるようになって、もう久しいですね。
 今日、私もいつか漬けるようになるかもしれないなあ、と思いながら、梅の実を見ました。」

「散歩道の両側の田んぼが次々に青田になって行きます。
 普段水のない溝にも勢いよく水が流れています。
 警報機の無い踏み切りを過ぎた所の庭にある梅の木から、少し熟れた梅の実が道にぽろぽろとおちています。
 今年も梅を漬ける時期がきていますが、何となくその気にならず過しています。
 パパのお弁当も要らなくなりましたしね。」


父母と暮らした時間より、離れて暮らし始めてからの時間の方が、ずっと長くなりました。
大人になった今も、私は何となく、ふいとお客さまがあるのを待っているような気がしています。

また青梅の季節がきました。


額の花父と離れて暮らす家 




  
[2007/06/11 23:33] 家族 | TB(0) | CM(2)

栗の花 

こんばんは
星の夜です。

小川さんのおばあちゃんちの庭の栗の木に花が咲きました。
花と言っても木の花ですから、紐状のクリーム色の地味なものです。
木にかぶさるようにして、全体を覆っています。

小川さんのおばあちゃんは、もうこの家には住んでいません。
東京の息子さんのところに行ったのだそうです。
そしてこの家は、向かいの老人ホームが買ったということでした。
駐車場にするのだそうです。

春には石の門のところに水仙が咲き、レンギョウが咲きと次々花が咲きます。
さほど広くないお庭ですが、木も多くて、しだれ梅、花ずおう、今はつつじ。柿の木もあります。

主がいなくなって、草も増えてきたけれど、その草の中で、おばあちゃんが植えた花たちが、次々に咲いてゆきます。
秋には栗が落ち、柿が実りするでしょう。

ガラス戸も閉まったままで、「本家 小川」と書いた表札に、草が伸び掛かっています。
小川のおばあちゃんって呼んでいたけど、名前は小川さんではなかったらしいです。
あれは、ここに「本家 小川」さんがありましたよ、っていう表札なんですって。

ゆっくり歩いて坂を上ってきて、「まあ、こんにちは」って。
赤いふちの眼鏡を掛けてました。
いつか車に乗せて差し上げたら、お礼にプラスチックのキティさんのお皿をくれました。
娘さんにどうぞ。

私も庭に花をたくさん植えようと思います。
来年も、またその次の年も咲いてくれるように。




[2007/06/10 22:40] 日記 | TB(0) | CM(4)

チベット 

こんにちは
風があるので、田の水や、草の穂が揺れています。
お隣のおばあちゃんの麦わら帽子が、畑の中に見えます。

下の方の田をつぶしたところに、家が数軒建ちました。
形は皆違うけれど、どの家も、赤茶色の屋根に白い壁。
地中海風のデザインです。

となると、あの向こうの道がエーゲ海でしょうか。
道の向こうの低い山や茂みはアフリカ大陸です。
ゲートボール場は、ヨーロッパあたり。
広いユーラシア大陸でつながって、ここはちょうどチベットくらいの位置です。
標高も高いし、世界が半分見渡せる場所です。

そうかあ、ここチベットなんだあ。
今も袋に入れたまま、扉つきの本棚にしまってあるチベットのおみやげ。
今になって、ようやくいろいろな情景が浮かんできます。

チベットまでの旅。
これを買うときの様子。
そしてこれを私に持って帰ってきてくれたということ。
その頃の私は、どうしてそうだったのか分からないけれど、いろんなことが、少しも想像できませんでした。
粗末な刺繍の小さい袋。
砂埃や、通じにくい言葉のやりとりや、私に届けようとしたたくさんの思い。

もうずいぶん時間がたってしまいましたね。
お元気ですか。
私は今、チベットに住んでいます。

太平洋は、青々と広がる田んぼと畑。





[2007/06/09 16:42] 日記 | TB(0) | CM(2)

手帳 

こんばんは
夕方一時、ずいぶん雷が鳴っていました。
雷がこわいワンちゃんが多いと聞きますが、キトリは全く気付かないかのよう。
何があっても、マイペースです。

もう六月だというのに、手帳を買い換えようかな、と思っています。
今年の初めに、ずいぶん選んで買ったつもりだった手帳が、何だか使いにくいのです。
今考えている、新しい手帳への希望は以下の3つです。

「一日が二つに分かれていること」
研究と家事を一つの手帳に書きたい。

「一ヶ月がカレンダーと同じように四角いマスに並んでいるページ」
曜日で動く生活になりました。

「一年とか、せめて半年くらいを俯瞰できるページ」
それは、ずっと先の予定を一目で見たくなったからです。

生活の中の時間の流れが変わったこと。
自分の中の時間の感じ方が変わったこと。
分かっているつもりだったのに、分かってなかったんですね。

手元にあるこの小さな手帳の中の時間って、何だったのかなあ。








[2007/06/08 23:52] 日記 | TB(0) | CM(3)

カエルの大合唱 

こんばんは
昼間はちょっと暑さを感じるようになってきました。

毎夜、蛙の大合唱がはじまりました。
田に水が入ったのです。
家のそばに田んぼがあるおかげで、夏はかなり涼しくなっているはずです。
カエルさんたちと、仲良く田んぼの恩恵を分け合うことにいたします。

それにしても、カエルの声にだけは、決して耳をすませてはいけません。
何となく聞いているぶんには、いいのです。
耳をすますと、もういけません。
いろんな高さの声が混じってないています。

ほらほらほらほら
ぎーぎーぎーぎー
そりゃそりゃそそりゃそりゃ
うりうりうりうり
よいしょこよいしょこよいしょこ

謙虚さのかけらもない、自己主張の大合唱。
だからうっかり耳を傾けてしまうと、ほとほと疲れ果てるのです。

きけきけきけきけ
ごねごねごねごね
もっともっともっともっと
おれだおれだおれだおれだ
こっちだこっちだこっちだこっちだ

あー、一度聞こえてしまうともう、聞こえて聞こえて、逃れられなくなりますから注意です。




[2007/06/06 22:34] 日記 | TB(0) | CM(6)

ジャム作り 

こんばんは
日が長くなりましたね。

日曜日に、ゆすらうめのジャムを作りました。
お鍋一杯のくだもの。
ジャム作りは、本当に楽しい仕事です。

離れると焦がしてしまうので、ずっとお鍋のそばにいます。
何にもしないで、ただ木べらで混ぜながら、だんだん色が変わっていくのを眺めています。

ゆすらうめのジャムは、ルビーのような、表情のある赤になりました。
指で掬ってなめてみます。
凝縮されたゆすらうめの味。

ジャムの色は、そのくだものの持っている、本当の色なのだと思います。
目をこらして、長く見つめていないと見えない、くだものの本当。
ジャムは、ガラス瓶に詰まった、くだものの本当です。

本当だけになるまで、ただそばにいて待っている幸福。


[2007/06/05 22:06] 日記 | TB(0) | CM(2)

一日ずつ生きる 

我が家に新しい家族が増えました。
黒い出目金の「まつ」と赤いちび金魚の「うめ」です。
マツとウメは、昨日のお祭りの金魚すくいで我が家にやってきました。
夫に、朝になったら死んでるよと言われましたが、今も元気です。

夕方、ホームセンターで、えさと、酸素の出る石を買ってきました。
ついでに水草も買いました。
金魚鉢もありました。
でも、いかにも生物学科卒という感じの、真面目そうな若い女性の店員さんに、フィルターとセットになった水槽をすすめられました。
フィルター無しでは夏が越せませんよ。

夏を越す。なんという野望。
フィルターつきの水槽の中をゆったりと泳ぐ、少し大きくなったマツとウメ…。

結局、今日もマツとウメは、水草でますます狭くなった瓶の中です。






[2007/06/04 23:36] 日記 | TB(0) | CM(2)

お祭 

こんばんは
月のいい晩です。

夕方から、お祭りに出かけました。
このお祭りを境に、これからは浴衣という日でもあります。
浴衣姿で出かけるお祭りです。

娘も、紐を落として、一人前の帯を締めるようになりました。
娘の浴衣は、昼のうちに去年の上げをおろして準備してあります。
嬉しそうな娘に浴衣を着せているうち、何だか自分も着たくなりました。

少し躊躇して、それから急いで自分の浴衣と帯を出しました。
私のは、おととし買った、若い頃とは違う、抑えめの色や柄のものです。
大急ぎで着て、鏡で帯を確かめます。
さっと鏡に目をやって、こういう浴衣を着るようになった自分を確かめます。
そして、それもいいかなって思いました。

お祭りにはたくさんの浴衣姿の人出がありました。
きれいな娘さんの、美しい浴衣姿はやっぱり素敵です。
まだ若い女の子が、合わないアクセサリーや髪型をしていたり、着崩れていたりする、着慣れない感じもいいものだなあと思いながら見ます。
精一杯の気持ちで着ているのが、照れくさいほど伝わってきます。
そういう、あんまり素敵でない女の子を、嬉しそうに連れている男の子を見るのも楽しい気がします。
女の子も嬉しそうです。

夜店でそれぞれ好きな買い物をします。
金魚すくい、鯛焼き、くじ2回。光るプラスチックの飾り。
くじの景品は、イカの形のビニール人形とハム太郎の時計でした。
娘も私たちに似てくじ運が悪そうです。
私は、夜店の明かりに照らされた夜道を、金魚の入った袋を提げて歩きます。

何もかも、それもいいかな、と思うお祭りの晩です。






[2007/06/04 01:23] 日記 | TB(0) | CM(0)

通りすがり 

こんばんは
少し涼しい一日でした。

キトリのお散歩。
いつもの高校の裏門のところで遊んでいました。
すると斜面の上のキトリに向かって、遠くから良く響く女性のきれいな声。
「きみ、遊んでるの。いいね。」
人間が大好きなキトリ。
ダッシュでその人のところへ向かいます。
門から出てきた、背の高いその人は、車のそばでキトリを迎えました。
キトリったら、前からなついている人みたいに、お座りしてごきげんです。

お化粧もしていないけど、さっぱりとして何だか素敵なその人は、
本当に愛情込めてキトリをなでてくれます。
「そう、それがいいの。そうしたいの。」って話しかけながら。

「キャベツとか白菜好きでしょう。」
「きれいにしてもらってるね。」
大事なワンちゃんを亡くされたのだそうです。
私と話している間もずっとキトリをなでています。
行き場のない、亡くなったワンちゃんへの気持ちが、キトリにいっぱい向かって、とっても嬉しそうなキトリ。
あくびをしたり、寝そべったりして、リラックスです。

そろそろお別れ。
「じゃあね、キトリちゃん。」
「よかったね、キトリ。いっぱい優しくしてもらって。」
キトリがちょっと振り返りました。

誰を愛するかにかかわりなく、深い愛情が先にあることってあるのかもしれません。
足の速い人が、どこに向かって走っても速いように。

「また会えるといいね、キトリ」
キトリは、もう忘れてしまったという様子で、私と一緒に、とことこ坂を下っていきます。







[2007/06/02 22:03] 日記 | TB(0) | CM(0)

バラ園 

こんばんは
今日は満月です。
夏の月も、涼しくていいですね。

昔、バラ園の近くに住んでいました。
毎年、この季節には、園を解放してくださっていました。
それはそれは立派な、趣味のバラ園でした。

ある年、それがなくなって更地になってしまいました。
とてもやりきれない気持ちがしました。
もう10年くらい前のことです。

先日久しぶりにそこを通ったら、
大きなマンションが建っていました。

マンションの垣根には、いろんな色の立派なバラがたくさん花をつけていました。





[2007/06/01 23:58] 日記 | TB(0) | CM(2)