手紙を出す 

こんばんは
今日は少し涼しい一日でした。

あなたの家から一番近いポストまで、どのくらいありますか?
書き上がった手紙や葉書を持って行くのって、特別な気分ですよね。
それから、投函する時も。

私の家からポストまでは、たぶん50メートルくらい。
今の季節は桜の葉に隠れて見えませんが、冬は窓から見えます。
だから、つっかけを履いて、スキップしながら行くのです。
家の前の小さな橋をわたって、木蓮の木の下を通って。

ポストには「収集時間 10:00ごろ」と書いてあります。
知ってるけど必ずそれを読んで、それから銀の口に深く手を入れて、中に落とします。
そのあと口のところをパタパタと動かしてみます。
そして、心の中で、よし、とか思います。

今日のは事務的な書類の郵送でしたけど、それでも手順も気分もおんなじ。
帰りは、ちょっと寄り道気分で草を引っ張ったりしながら帰ります。

帰ってみると、あれ、入れたはずの書類が一枚食卓に残っていました。
ひゃあ、だいしっぱいー。
でももう投函してしまったのですから仕方ありません。
無くても分かってもらえるだろうって諦めることにしました。
ポストの中は、もう決して手の届かない別の世界なのです。

まもなく収集時間の10時になって、それから10時10分になりました。
気になるので、つっかけを履いて、ちょっとポストまで行ってみました。
パタパタを動かしたり、ポストの横をこんこん叩いてみたりしました。
まだ中にあるものやら、もう集められて行ってしまったものやら。
どうしようもありません。
仕方ないのでまた橋を渡って家に帰りました。

11時過ぎて、郵便配達のバイクの音。

思い出した!
前に葉書を出しに行こうとしたら、配る人が「預かるよ」って受け取ってくれたこと。
集めるの、同じ人かも。
いそいで外へ出て、バイクを追いかけます。「すみませーん」

でもね、その郵便屋さん、私の手紙を持っていなかったのです。
ポストの鍵、忘れてきちゃったんですって。
真っ黒いもじゃもじゃ頭の郵便やさん。

午後、その郵便屋さんのおかげで、一度は別世界に行った私の手紙が戻ってきました。

「封書は80円ですよ。気がついて良かったですね。」
見ると、50円切手が貼られています。
夏の花の絵の切手を見つけて、嬉しくなって貼ったのでした。

手の届かない世界から、私の所に戻ってきた、いろいろ足りない手紙。
その手紙を手に持ったまま、
私は去ってゆく赤いバイクを、しばらく見送りました。





[2007/05/31 23:47] 日記 | TB(0) | CM(2)

更衣室にて 

こんばんは
午後から雨が上がりました。
雨上がりの風は、とてもいい気持ちです。

水曜日は、水という字がつくので、泳ぎに行くことにしています。
まだ旅行の疲れがとれていませんけれど、やっぱりでかけました。

平日の昼間のプールは不思議な場所です。
みんな一人で、自分に向かって泳いでいます。
今日は、年配の方がほとんどでした。
私も、ゆっくり自分のペースで泳ぎます。
少しだけ身体がほぐれて、少しだけ疲れてきたらおしまいです。

私のあとから、更衣室に戻ってきた人は、両手に杖を持っていました。
杖をつきながら、ひと足、ひと足、更衣室を進んでゆきます。
彼女のロッカーは一番端でした。私の隣です。
遠いのに。
見ていると、杖を立てかけるのに、そこが都合がよいのだと分かりました。

今度は杖を持たず、着替えを取って、さらにゆっくり、彼女はシャワールームに向かって歩き始めました。
つい、じっと見てしまう私。

目が合いました。
彼女の、こわいほど一徹な顔がゆるんで、ちょっと驚くくらい柔らかい笑顔になりました。
「なかなかねえ。」。優しい声。

「先週もお見えでしたね。」
「先週は毎日来ました。」

私はいつも、誰も、決して励ますことは出来なくて、ただ、励まされることばかり。







[2007/05/30 23:52] 日記 | TB(0) | CM(4)

かくれんぼ 

こんにちは
今日は曇りです。
ゆすらうめが食卓に活けてあります。
明るい緑の葉に隠れるように、赤い実がたくさんついています。
まるで、かくれんぼの子供達みたいに。

あなたのかくれんぼの思い出、どんなのですか?

早く隠れなくちゃって焦る時の気持ち、今でも焦ると同じです。
すばやくあたりを見回して、誰も思いつかない所を探して一人で走って行きます。
うまく隠れると、その思いつきが嬉しくてなりません。
姿が見えないようにって、こっちが目をつぶって待ちます。
誰の声もしなくなって心配になっても、じっとしてなきゃって自分に言い聞かせて。

鬼になった時は、早く数え終わりたい気持ちを抑えて、できるだけゆっくり数えます。
壁のセメンの匂い。
それなのに、数え終わってふりかえると、だあれもいなくて。
かなしくて、放り出して家に帰りたくなっても、探さなくてはいけません。

かくれんぼは、子供には難しい遊びですよね。

隠れることに一生懸命になりすぎる子供は、永久に見つけてもらえません。

さっさと見つかってしまった友達の、やたらあっけらかんとした明るさ。
隠れている茂みの草のちくちく。
急に暮れてくるあたりの静かさ。

そして、見つかったときに備えて、泣いたりできないこと。







[2007/05/29 16:28] 思い出 | TB(0) | CM(2)

願いをかなえる 

こんばんは
庭の卯の花が咲き始めました。
真っ白で、真っ白で、悲しくなるほど真っ白です。

先日、母から名刺入れをもらいました。
頂き物をとっておいたのだそうです。
去年退職前に、素敵な名刺入れに出会って、欲しいなって思ったのですが、買いませんでした。
もう仕事はやめるのだから、これからはいらなくなると考えたのです。
同じものが欲しいと思うと、節約生活の今はもう買えません。
あの時買っておけばよかったなあって何度も思いました。

そしたら、ふっと名刺入れが私の所にやってきました。
欲しいと思っていたのとは、少しも似ていないけど、これはこれで素敵です。
とっても嬉しくなりました。
心の片隅で、ちょっとだけ思っていると、いつかふっと願いが叶うものなのですね。

学生時代の友人は、新婚旅行でイタリアに行きました。
帰ってからの幸せそうな彼女の様子をよく覚えています。
それから、「もう一度来たいって思ったら、全部廻らないで、行きたい場所を一つ残して帰って来る。そうするときっとまた行ける」という話も。

森の道を帰れるように、何かを少しずつ落としてゆく知恵。

とうに忘れてしまった後も心の中に残っているものが、静かに呼び寄せている何か。








[2007/05/24 23:49] 未分類 | TB(0) | CM(4)

机 

こんにちは
今日はちょっぴり曇り。

あなたには、ご自分の机がありますか?
私の今の机は、けやきの古い勉強机です。
学生時代に、お茶の先生からいただいた、息子さんの机です。
50年以上は前のものだと思います。

右袖は、一番下が引き出しですが、上部分は、はね上げ扉になっていて、中は、仕切り板がついた書棚です。
おなかの引き出しは二つ。
どちらにも古めかしい小さい鍵穴がありますが、もう鍵はありません。
天板にも引き出しにも、手垢やしみがたくさんついています。
頂いた時には、引き出しの中に幼い字の落書きがありました。
小学校入学の時に購入されたのでしょう。
大人の私にさえ大きな机。
これから、この机に向かってたくさんの時間を過ごし、やがて一人前になっていく息子の、その長い時間への思い。
長い長い年月を経ているのに、厚い天板も、木の引き出しも、少しもゆがんでいません。
勉強机の、強い正しさが、全体から感じられる、そんな机です。

今、机の前の壁には、今年の母の日に娘からもらったカードが貼ってあります。
横の壁には、高校生の時から飼っていた猫のユキちゃんの写真が掛かっています。
ホールインワン記念の地球儀のついたブックエンドには、20年前の日付と見知らぬ人の名前がはいっています。
小さい木の本棚。
これから読む本と、今読んでいる本が置かれています。
人が、長い時間をかけて考えたことが書かれた本。

家族との長い時間と、見ぬ人の長い時間。

気持ちの良い初夏の風が、ここまで届いています。








[2007/05/23 17:22] 思い出 | TB(0) | CM(4)

ノイローゼ 

こんにちは
二階の窓から見える空は、青くて、雲が浮かんでて、下の方は少し青い色が薄い、そんな空です。

少し前に、ねんざをしました。
キトリのお散歩中のことです。
キトリの目の前を、子ダヌキが横切ったので、突然追いかけ始めたキトリのリードに引っ張られて、ちょうど足場が悪かったので、ねんざです。
そういうわけで、このところ、お散歩にも行けずにいます。
夕方になると、お散歩行きたいなーって、仕方なく外を見ています。

このあたりは、のどかな風景や、車が通らない小道があるせいか、犬のお散歩のメッカです。
さっきも窓から、黒ラブのジョンちゃん、ビーグルのアリスが通っていくのが見えました。
このごろ、モモちゃんのお母さんの姿が見えないので心配です。

いつも明るくてやさしいモモちゃんのお母さん。
お散歩中の立ち話によると…
この間、つい向こうの田んぼと畑を作っている、背の低いおばさんと言い合いになったのだそうです。あのちょっと愛想の悪いおばさんかあ。
どうしてかっていうと、そのおばさんが、お散歩中にモモちゃん母さんの後をつけてきて、明らかに、見張っているのだそうです。
さすがのモモちゃん母さんも烈火のごとく怒って、「夜の11時とかに散歩してる人をつけてみたらどうですか、って言ってやったんよ」
実は、お散歩中のワンちゃんの落とし物を、取らない人が結構いて、道に時々落ちているのです。

右手の雑木林の持ち主のおじさんも、とても怒っています。
草刈り機で草を刈っている時、それにあたると砕け散って、顔などにかかるそうです。
何ヶ月か前に、その山の何カ所かに段ボールに「犬を殺すぞ」ってマジックで書いて掛けてあったたことがありました。
「子供が見るのでやめてください」っていうと、はずしてくれました。

でも、いっこうにその被害は止まらないようです。
モモちゃん母さんのその後の話によると、例のおばさんは、この間、犬を飼っているある家に、文句を言いに行ったんですって。
その人は、私も知ってるけど、飼い主として立派なマナーの持ち主。
で、怒ってお散歩用手提げの中のものを、おばさんの家まで見せに行ったそうですよ。

夫は毎朝5時半頃キトリの散歩に行きます。
おばさんが必ず立っているそうです。
すごいぞー。おばさん。

先日、今まで落とし物を投げ込むのにちょうど良かった草地が、新しく畑になっていました。緑の網も張り巡らされています。
あのおじさんが、「ワシが畑にしてやったんよ」と、得意気に話していました。みんなに自慢してるのかな。よその女の人のために、こんな斜面の土地を耕してあげるなんて、おじさんいいとこあるじゃん。
次の日見ると、その網の上に「放置したら警察に通報する」と書かれていました。
おじさん、もしかして、放置場所をなくすためにここを耕したの?
すごいぞ、おじさん。そう来るか。

今日も、上から見ていると、おじさんとおばさんが、さりげなくこのあたりをうろうろしています。
おじさんはいつものベストにいつもの麦わら帽子。
おばさんはあのかわいい日よけ帽姿です。
ふたりは時々立ち話をしています。

きっと二人の頭の中は、朝早くから夜遅くまで、犬たちの落とし物のことでいっぱい。

あ。モモちゃん母さんとモモちゃんだ。よかった元気なんだな。

私は、もしノイローゼになるんなら、もっといいもののノイローゼになりたいなって思う今日この頃です。








[2007/05/20 17:40] 未分類 | TB(0) | CM(2)

旅行鞄 

こんばんは
雨が降ったり、急に晴れたり、今日は不思議な一日でした。
いかがお過ごしでしたか?

今日、旅行鞄を買いに行きました。
あなたの旅行鞄はどんなのですか?

出発前にはいつも旅先でのあれこれに思いを馳せます。
所用で行く旅なら、うまくいけばいいな、とか。
遊びに行く旅なら、あそこ行きたい、あれやりたい、あの人に会いたい、とか。
考えるだけで、何だか楽しくなります。
やっぱり旅は特別な出来事です。

今日、鞄を選びながら、旅の私をいろいろ思い浮かべました。
荷物を詰める私。
駅のホームを歩く私。
慣れない街で、今日泊まるホテルを探す私。
宿で着替えをそろえる私。
あれ、思い浮かぶのは、どこへ行っても、どこか世慣れない、いつもの私ばかり。

少し迷って、結局ちょっと大人っぽい、黄色の入った渋い縞模様の鞄を買うことにしました。
ちょっと人目をひく鞄。
少しだけどきどきの楽しい旅行です。
これなら、空港で預けた荷物が出てくる時、きっとすぐに見つかるでしょう。

それから、置き忘れには要注意。
その鞄には、いつもの私が入っています。







[2007/05/20 00:59] 日記 | TB(0) | CM(5)

お豆のしたく 

こんばんは
お疲れさまです。
夕方から雨になりました。

お昼前頃でしょうか、今日もまた、外から「袋もっておいで」ていう声。
出てみると、青いバケツいっぱいのお豆。

「いるだけどうぞ」
「しゃべっとる間にほら」

忙しいって思っていたけど、桜の木の下の石に並んで腰掛けました。
同じように、さやから豆を取り出します。
このあたりで、ブンドウというお豆です。
おおきなさやは、そのまま地面に捨てていきます。

「こないだ、孫の一歳のお祝いで、一升餅ついたんよ。
よう歩かんといけんけ、一升よりちょっと小さくした」

すぐにグリーンピースに似た緑の豆つぶがいっぱいになりました。

今度は、さやエンドウのすじを取ります。
取り除いたすじは、やっぱり地面に捨てます。
あとで畑に捨てるからいいって。

袋一つしか持って出なかったので、すじが取れたさや豆は、自分のくつの上にのせていきます。
くつの先に、緑のさやエンドウが山になって、くつから落ちそうになったので、それをスカートのポケットに入れました。
何回かそうすると、もうポケットに入り切らなくなりました。
それで、もういいやって、ブンドウと一緒に袋に入れました。

桜の木の下は、畑への小道の入り口です。
少し曇っているので、葉桜の緑が今日はいっそう濃く思えます。

そういえば、おばちゃんの下の名前、知らないなあ。

並んで座って、お豆のしたく。



[2007/05/16 23:52] 日記 | TB(0) | CM(4)

歴史ずかん 

こんばんは
気持ちのいいこの頃です。
家中の窓が開けてあるので、いろんな訪問者があります。
ツバメが入ってきて、一周回って、すぐにまた出て行きました。

今日、『ずかん百科 ビジュアル日本の歴史』という本が届きました。
娘と並んで寝そべってパラパラ見ていきます。
絵がいっぱいです。

縄文時代の春のお食事メニュー。デザートはゼリー・アラモードですって。クッキーもついてます。
何年か前に退官した教授が、座ってアンギンという布を編んでいます。
埴輪の母と子の会話。
「ママ、パパは?」「さあ」「あ、あんなところで変身のポーズしてる」「困ったモンだよね。キトリ、おいで」
埴輪のキトリ。やっぱりよそを向いてます。
白に赤い縞のはいった素敵なプリーツスカート。
奈良時代の貴族の家には、夫の里の客間の絨毯が敷かれています。
正倉院のガラス製の緑の魚。
平安時代の貴族のお食事に、アワビのウニあえがあるのを見逃しません。
壇ノ浦、風が強かったよね。私たちは平家びいきです。

絵巻物。あ、私たちと同じ格好で本を読んでる。
向こうから声が聞こえてくる。

ねえ、あなたたち、何見てるの?
楽しいね。




[2007/05/16 00:08] 日記 | TB(0) | CM(2)

さくらんぼ 

こんにちは
あんまり風が気持ちいいので、家の中にじっとしているのがもったいなくて、庭のウッドデッキに出て本を読むことにしました。
日よけに、大きな農作業用の麦わら帽子をかぶって、首にタオルを巻いて、農作業さながらです。
筆耕ならぬ読耕?
昭和の初めの子どもたちの綴方を読んでいきます。
キトリがそばに来て、また眠り始めました。

そしたら、庭の外から「さくらんぼ、とりにおいで」って。
うれしい。
二、三日前から、さくらんぼの赤い色が、二階の机から見えていたのです。
上から見ては、食べたいなあって、鳥かごにいる小鳥気分でしたから。

大きな木が二本、ちょっと離れて小さいのが一本ありますから、いくらでもあるように思えます。
つやつやして、やさしい赤色のさくらんぼ。
少しだけ甘くて、すこしだけ酸っぱい。
食べてはプイって種をはきながら、赤い実を持参の紙袋に入れていきます。

「姪っ子が今度結婚するんよ。もう両親ともおらんけ、心配でね。」
「え、まだお若いですよね。」その子のことなら、ちょっとだけ知ってる。
「もう、25よ。妹が死んでから、3年してお父さんも亡くなったけえねえ。」
濃い緑になった桜の葉と、さくらんぼの赤い実。

枝を低く伸ばした大きな桜の木の下でふたり。
いつも薄い花柄のエプロンとズボン。
母と同じくらいの年齢かな。
「こういうの、ずいたれって言うの、知っとる?わたしゃ、この辺の生まれでないけ知らんかったけど、ご飯とご飯の間にものを喰うってね。」

紙袋はいつのまにか、さくらんぼでいっぱいです。

ランドセルの子どもたちが、集まってきました。
「おばちゃん、とって食べてもいい?」

木から実を採って、その場で食べた思い出は、きっといつまでも残ります。





[2007/05/14 18:15] 日記 | TB(0) | CM(6)

ミルクセーキ 

こんばんは
こぼれ種の野いばらが、今年も、庭の物置のまわりに、真っ白な花をたくさん咲かせてくれました。

このごろ、時折ミルクセーキを作ります。
牛乳と、卵と、バナナとお砂糖を入れて、ミキサーで混ぜます。
ミキサーのすごい音。

子供の頃、家にあったのと同じような形のミキサーです。
楽しみにしている娘の前で、そのミキサーをガーっと鳴らします。
母が私にして見せたように。

家で一番偉い私。
このひどい音をさせて、誰にも文句を言わせない。
だってミルクセーキを作っているんですもの。


風やさししろつめくさの首飾り

[2007/05/12 23:35] 日記 | TB(0) | CM(3)

祖母の写真 

こんばんは
暦はいつの間にか夏になりました。
初夏の風が、本当に気持ちよくて、今ここにいることが、ただ嬉しくなります。

一昨日、祖母が亡くなりました。
今日みたいに、風の気持ちのいい日でした。

その白黒写真を持ってきてくださったのは、祖母の弟にあたる方でした。
祖母の里帰りの折の写真です。
それは、誰かに聞かなければ、写っているのが誰なのかわからない、古い写真でした。
聞いて、ああと納得しながら、もう一度写真を見直します。

写っているのは、六人。
祖母のおじいさんだけが座って、あとはみな立っていました。
そばにいる小さい女の子は、私の母。リボンのついたワンピースに、靴を履いています。
白っぽい着物の若い女性が、祖母だということでした。
反対側に祖母の義母。濃い色の着物が絽の着物だと気付いてみると、それは夏の日のことのようでした。
後ろに立っていた祖母の弟は、小学生の帽子をかぶって、ちょっとやんちゃそう。
少し離れて若い祖父。

よく見ると誰も笑っていないのに、皆が笑っているような気のする写真でした。

祖母のおじいさんは、このあと、ほどなくして亡くなったそうです。
そのおじいさん以外は、みな私が知っている人なので、見ているとそれぞれの声が聞こえるように思われます。
おじいさんは大男で、倒れると起こすのに二、三人がかりだったという話だけが、昔語り。あとの話はどれも、今とつながって聞こえてきます。
でも、祖母が亡くなって、この写真の中で、今も生きているのは二人だけ。

「里に帰るときこそ、いちばんよい支度をして」と、母が私に言うように、祖母も母に言っていたろうと思います。
涼しい祖母の美しさが際立って見えました。

写真を持ってきてくださったのは、ここに写っている祖母の母の子供です。
吸い込まれるように静かに話すその人にとって、これは、母親の写真なのでした。

写真の中にも、夏の風が吹いています。







[2007/05/10 22:42] 家族 | TB(0) | CM(3)

連休の過ごし方 

こんばんは
田に水が入ると、いっぺんに蛙が鳴き始めるのはどうして?
君たちは、いつおたまじゃくし期間を過ごしたの、と尋ねたい。
どなたかご存じでしょうか。

今日でゴールデンウイークも終わり。
いかがおすごしでしたか?

連休中に私がやったことは以下の通り。

里帰りと祖母のお見舞い。実家では飽食の日々。
谷間の授業では、読んでゆくべき本を、半分しか読まずに出席、しどろもどろ。
ご香典返しのお茶を焙じて、ほうじ茶に。少し焦がしてしまったけど、香ばしくてとてもおいしい。
台所のレンジ磨き。
お庭の草取り。
娘のスカートづくり。これは先日近所の手芸店で、生地を衝動買いしたため。
で、結局今日になって、生地に合うレースを求めて、遠いところにある大きな手芸屋さんまで遠征となってしまいました。
その上、特に用のないはずの売り場にも長く滞在。おかげで、肝心のスカートは最後のところで疲れて挫折。完成間近とも言えますね。
お弁当持って山へピクニック。友人が送ってくれた小説を持って行って読みました。結構面白かった。
大好きなお友達とメール交換。

とっても楽しかった。

明日からはまた、楽しいことばっかりウイーク!






[2007/05/06 23:51] 日記 | TB(0) | CM(2)

緑の思い出 

こんばんは
今日は五月のお節句でした。
菖蒲湯って、なさったことありますか?

以前、両親が岡山の社宅にいた頃のこと。
母が「お隣のお庭に菖蒲がたくさんあるから、菖蒲湯にしよう。」と、いつものように突然の思いつきです。
お隣は単身赴任。結構草ぼうぼうでした。
二人で黙って入ったお隣のお庭。
草丈が高くて、静かで、切ると草のにおいがして、すぐそばにいる母が遠くに思えて、どきどきしました。
その夜の、狭い我が家のお風呂での菖蒲湯―遠い思い出です。

今日は、お弁当をもって、山の方へピクニックに出かけました。
新緑の山また山。
車が進むにつれて、次第に気温が低くなってきて、いつか明るいぶな林の中を進んでいました。
緑は毎年同じはずなのに、草の匂い、木のにおいの思い出はそれぞれに鮮やかですよね。
今日のことは、どう私や子供の中に残っていくのでしょうか。

そうそう、帰る車中のことです。
うまく言えませんが、ふと、私が、今この山の中にいる私でしかなくなりました。
言葉でなく、急にその感じに包まれたのです。
そしてすぐにそれは消えました。

山奥の木々の中にいる、この身体という私。
私がここにいることの意味を、おそろしく深く問うような感覚でした。
車に乗って来たとか、ピクニックとか、気晴らしとか、そういう理由ははなから通用しない厳しさです。
それは、お前はここにいない、という詰問のようでした。
それに気付かせるために、一瞬だけ、お前をお前にひき戻してやったのだと言わんばかりの。

本当に一瞬のことで、すぐに私は、車の助手席にいるピクニック帰りの私に戻りました。

その時の木々は、明るい新緑のそれではなく、もう少し深い色の緑でした。

私を乗せて、深い緑の色と匂いの中を行く車。









[2007/05/06 00:43] 日記 | TB(0) | CM(4)

市民農園 

こんばんは
しばらく前から、ツバメが行き来しはじめました。

このごろ、このあたりには、市民農園として貸し出された畑が増えています。
休耕田として荒れさせておくのも心苦しく、かといって田畑を作る者もないというところかもしれません。
市民農園になった場所は、とても賑やかです。
さまざまな作物が、とりどりに植えられて、少し離れて見ると、てんでばらばら、無秩序そのものです。
さや豆の棚や、小さいハウスが、所々ににょきっとあります。
畑を柵で囲う人もいます。
猪垣としては高すぎるので、想定害獣はきっと人です。
高い柵をして、扉をつけ、家に鍵を掛けるように、固く閉じられています。

いままでずっとこの畑を作っていた、百一歳のおばあさんが見たら、大笑いしそうだと思いながら通ります。

作る人は変わっても、畑の人に、ひと声掛けて通ります。
こんにちは
この里に来て、この里の土を耕してくれる人たち。

耕さず暮らすだけの私やら、暮らさず耕すだけのあなたやら。

もうすぐ夏になるね。



農園の小さき区画つばめ来る

ひとつおきの空色ビーズ燕来る

[2007/05/04 23:54] 未分類 | TB(0) | CM(0)

泣いた赤おに 

こんばんは
今日は八十八夜だそうです。昨日、お友達のろしなんてさんに教えていただきました。何でも、誰かから聞いて知るのは、嬉しいものですね。

八十八夜といえば、茶摘み。
考えてみると「新茶」って、今の時期の、あふれかえる新緑のしずくなのですね。
あなたは、どんなお茶がお好きですか?
おいしいお菓子とお茶のある幸せ、いつも誰かに分けてあげたくなりますよね。

「おいしいお茶とお菓子がございます。どうぞ遊びに来てください。」
赤おには、そんなお友達がほしかったのでしょう。
青おにのおかげで、さびしかった赤おにのところに、ようやく村人が来てくれるようになりました。
もう赤おにはさびしくありません。

でも、青おには、どこかへ行ってしまいました。
青おにはきっと、赤おにと同じさびしさを知っていたのだと思います。

赤おには、いつも心づくしのお茶とお菓子を用意いたします。
来てくれる村人のために、離れたところにいる青おにのために。


[2007/05/03 00:05] 日記 | TB(0) | CM(2)

矢車草 

こんばんは
初蛙です。
夜になっても鳴いています。
まだ一匹みたい。
姿は見えないけど、かわいいです。

いつもの散歩道に、矢車草がたくさん咲いている一角があります。
車の通る表の道をちょっと入った細い道です。
膝丈ほどの青い花が、石垣と土塀のある辺りを中心に、なんとなく連なって咲いています。
小川に沿ったその道の先は、ちょっと坂になっていて、向こうに新緑の鮮やかな色が見えています。

ここにさしかかると、いつも懐かしい気持ちになります。
子どもの頃、延々と続く土塀のそばを歩いて学校に通っていました。
その通学路に矢車草は咲いていませんでした。

それでも、いろんなことを思い出すのは、やっぱりこの青い花のせいだなと感じています。




[2007/05/01 23:53] 未分類 | TB(0) | CM(2)